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大阪高等裁判所 平成6年(行コ)8号 判決

控訴人(被告) 大阪府地方労働委員会

補助参加人 おんな労働組合(関西)

被控訴人(原告) 日本国有鉄道清算事業団

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とし、当審における補助参加によって生じた費用は控訴人補助参加人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  主文一項と同旨。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

以下に訂正、付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決一一枚目裏八行目の「賃金月額」を「賃金日額」と改める。

2  同一三枚目裏六行目の「婦人部長といっも」を「婦人部長といっても」と改める。

二  控訴人の主張

1  臨時雇用員の退職手当算定問題について、国鉄大阪工事局と国労分会(国鉄労働組合大阪工事局分会)との団体交渉の間で協議が尽くされていたということはない。

すなわち、大阪工事局と国労分会の間で臨時雇用員の雇止めに関して行われた本件の一〇回の団体交渉のうち、退職手当問題について交渉が行われたのは昭和五八年八月二五日の第七回の団体交渉のみであるが、その際も、大阪工事局側は、部内規程を示して退職手当の具体的な算定方法を説明したことはない。

その第七回団体交渉の中で、国労分会側が「規定である以上、地方権限の枠を超えるものであり、残念であるがどうにもならないと思うが、こういった事柄があるということは本社に伝えてもらいたい。」旨の発言をしたのは、退職手当の支給率の割り増しができないとの大阪工事局側の回答に対して述べたものであり、必ずしも退職手当に関する部内規程のすべてについてのものではない。むしろ、国労分会側は、「退職条件については地方当局としてでき得る最大限の措置を講じられたい。」と述べ、これに対し、大阪工事局側は「退職条件については今後とも協議して行きたい。」と述べており、このことからも、団体交渉当事者間において、今後もなお協議を続けることを予定していたことが認められる。

したがって、本件団体交渉においては、退職手当の支給率の割り増し要求についての協議は行われたものの、退職手当算定方式の適用の仕方についての交渉は行われなかったのであり、その後、本件団体交渉申し入れまでの間、この問題についての団体交渉申し入れがなかったのは、和田弘子が雇止めを認めず、あくまで雇用の継続を主張して訴訟を提起していたため、雇用関係の終了を前提とする退職手当の問題を団体交渉の議題として持ち出せなかったからであって、臨時雇用員の退職手当算定問題については、まだ協議が尽くされてはおらず、なお団体交渉を行う必要がある。

2  和田弘子が退職手当の算定方式を知っていたかどうかについては、たしかに同女が作成した国労分会婦人部ニュース(乙第四一号証)の記載から見ると、同女が退職手当の算定方式についてある程度の知識を持っていたことは窺われるものの、控訴人補助参加人が特に問題としている「根拠法令」「賃金日額に〇・八を乗ずる根拠」「自己都合退職かどうか」については記載されておらず、したがって、同女が、退職手当算定方式を細部にわたるまで知っていたとは認められない。

なお、同女は、昭和五八年九月一六、一七日に行われた臨時雇用員退職予定者のための社会保険関係等説明会には出席していないので、その点からも、同女が退職手当算定方式を知っていたことにはならない。

3  前記のように、控訴人補助参加人の本件団体交渉申し入れの交渉事項のうち、「和田弘子の在職時の扱い」と「解雇時の諸条件」の問題については、国労分会と大阪工事局の間の一〇回の団体交渉では協議が尽くされていないうえ、特に、和田弘子は、当時退職手当の算定方式を知っておらず、別件地位確認訴訟(大阪地方裁判所昭和五九年(ワ)第六三五号従業員地位確認等請求事件)係属中に初めてこれを知り、平成二年八月に労働基準監督署及び公共職業安定所へ調査に行き、退職手当の算定方式の適用の仕方に疑義があるとの指摘を受けたことから、控訴人補助参加人が国労分会とも協議の上、本件団体交渉の申し入れをするに至ったという特別の事情があることからすれば、被控訴人には本件団体交渉の申し入れを応諾すべき義務があり、団体交渉拒否の正当事由はないというべきである。

三  控訴人補助参加人の主張

1  国鉄の退職金算定方法の明示・説明義務違反

(一) 国鉄は、そもそも退職金算定方法の明示・説明義務さえ怠っていた。

すなわち、退職金算定方法の明示・説明義務が尽くされたと言い得るためには、その算定式(俸給月額×支給率×勤続期間)のみならず、個々の退職者が、各自の退職金の額を容易に算定できるように、その構成要素である「俸給月額」「支給率」「勤続期間」の算出方法の明示・説明がなされるべきであり、また、その明示・説明にあたっては、その算定方法が、雇用契約、労使協約、就業規則等によってあらかじめ定められた正当な根拠に基づくものであることをも明示・説明することを要するものというべきである。

(二) 退職手当は、退職時の重要な労働条件であり、かつ、労働基準法二四条の「賃金」であって、そのため、同法八九条一項三号の二においても、「退職手当の決定、計算及び支払方法」について、就業規則への記載を義務付けている。

しかるに、国鉄は、その就業規則への記載をしていなかったものであり、これは明白な労働基準法違反である。

(三) 被控訴人は、国鉄は、「退職手当関係法規令達集」という小冊子を発行していて、これに退職算定方法の根拠となる法令、内部規程等がすべて記載されていると主張するが、右「退職手当関係法規令達集」の配布先は国鉄内の特定の部局の担当者等の限られた範囲であり、一般の職員や臨時雇用員が容易に目にすることができるようなものではなかったし、また、一般の法令のように、公布により周知が擬制されるような性質のものでもない。

のみならず、仮に退職する臨時雇用員が右「退職手当関係法規令達集」を入手できたとしても、それによって自分の退職金を算定することは到底不可能である。

したがって、「退職手当関係法規令達集」の発行をもって、退職金算定方法の周知がなされていたとは到底いえない。

(四) 国鉄は、団体交渉や説明会においても、退職金算定方法について、説明、協議を尽くしていない。

本件退職手当の算定方法及びその根拠とされる法令、規程の解釈適用は複雑難解であり、かつ、団体交渉や説明会において、「退職手当関係法規令達集」の抜粋或いは算定方式を記載した資料等を配布したこともない。右説明会の資料のなかに「基本手当に相当する退職手当(雇用保険関係)」が含まれていたが、これは雇用保険に関する資料であり、本件の退職手当に関するものではない。

したがって、国鉄が、団体交渉や説明会において、内部規程を援用して退職手当算定方法を説明、協議したとは到底認められない。

(五) 以上にように、国鉄は、退職手当算定方法についての明示・説明義務を怠り、そのため、臨時雇用員である和田弘子は、自ら退職手当算定方法を知り得ず、退職時の団体交渉において、その算定方法についての協議を尽くすことができなかった。

2  和田弘子が退職手当の算定方法を知った経緯

(一) 和田弘子は、別件地位確認訴訟において、被控訴人が提出した「臨時雇用員の退職金算定方式」によって、はじめて退職手当の算定方法を知ったものであり、平成二年八月に天満労働基準監督署と天満職業安定所へ、臨時雇用員の実態と雇用保険について調査に行ったところ、「二か月雇用であっても、一年六月の継続勤務がなされているので、出産を理由とした解雇、雇止めは労働基準法違反であり、仮にその扱いを受けたとしても、退職手当の支払又は雇用保険の支給など退職に伴う事務処理が必要である。」「整理解雇にあたって退職金の算定内容を知らされないのはおかしい。」「まず、話し合って明らかにすべきである。」との指摘を受けた。

(二) そこで、和田弘子は、国労と話し合いの結果、争議解決の主体を控訴人補助参加人が引き継ぎ、被控訴人に対して団体交渉の申し入れをすることの了解確認がなされたので、ただちに平成二年九月三日に本件団体交渉の申し入れを行ったものである。

そして、和田弘子は、平成三年三月七日に、労働省雇用保険係長及び被控訴人本社法務課長、同厚生課補佐など四名と折衝したところ、労働省雇用保険係長は、本件退職手当の算定方法について、日額賃金に〇・八を乗ずるのは疑問に思うと答え、また、被控訴人側は、計算の根拠の詳細は不明である旨述べたが、その後、同月一三日に、大阪府労働部雇用保険係に調査を依頼したところ、同月二六日に、同係長より被控訴人近畿本社の回答の送付を受け、それによって、はじめて和田弘子の退職手当の算定方法の全容が明らかになった。

その結果、和田弘子の長男出産時の退職扱い、次男出産時の勤続期間除外、自己都合退職の支給率の適用などの点で新たな疑問が生じたものである。

(三) 和田弘子は、昭和五八年九月一六、一七日に行われた臨時雇用員退職予定者のための社会保険関係等説明会に出席していないし、仮に出席したとしても、右説明会では、臨時雇用員の退職手当算定方式及び算定根拠の呈示及びその説明はなされなかった。

和田弘子が部長であった国労分会婦人部発行の婦人部ニュース(乙第四一号証)やビラ(乙第四三号証)に臨時雇用員の退職手当についての記事があるが、当時、一部の職員の中から、臨時雇用員はやめても退職金がたくさん入るから困らないであろうなどと意図的に発言する声があったところから、臨時雇用員の賃金や退職金がそんなに多いものではないということを理解してもらうために作成したものである。

和田弘子は、国労分会の婦人部長であるといっても、団体交渉の正式のメンバーでもなく、当局側から直接資料等を入手し、或いは、当局側と交渉し得る立場でもなかったし、右婦人部ニュースやビラに記載された退職手当算定方式が大筋において国鉄当局側が主張するところと一致していたとしても、「自己都合退職の支給率の適用」「基本給の〇・八」「勤続期間の分断」など重要な要素についての記載はなく、和田弘子が自己の退職手当の算定方式を知っていたということにはならない。

(四) 退職手当は主要な労働条件で労使協議事項あり、右のような、和田弘子がその算定方法を知った経緯や団体交渉の経過に照らしても、本件団体交渉の申し入れは正当であり、被控訴人はこれを拒否することはできない。

3  退職手当算定の法的根拠の不明確性

(一) 国鉄ないし被控訴人は、本件退職手当算定当時から現在に至るまで、退職手当算定の根拠法令が何か、部内規程とは何か、その相互の関係、具体的算定方式及びその構成要素(俸給月額、支給率、勤続期間)の根拠条文等についての基本的理解を欠いていた。

(二) 本件退職手当算定の根拠法令は国家公務員等退職手当法であるところ、国鉄には、関係法令に基づく部内規程として退職手当支給事務基準規程があり、「国家公務員等退職手当法に基づき支給する退職手当の支給範囲、支給額及び支給事務の取扱方については、同法及び職員管理規程によるほか、この規程の定めるところによる(一条一項)。この規程に定めていない事項については、法令(注・労働基準法、国家公務員等退職手当法施行令など)及び別に定めてあるもの(注・業務災害補償取扱基準規程、職員統計報告等基準規程など)による(同条二項)。」と規定されている。

右退職手当支給事務基準規程の制定に当たっては、労使協議が行われ、国鉄本社と組合本部間で協定が結ばれ、覚え書その他の文書が作られており、疑問点があれば、労使間で協議がなされ、不備な点があれば協定が結ばれた後に通達が出されたりして補填されて行くものであって、仮に疑義が生じた場合でも、組合を通じてその解明及び処理がなされるのである。

これに対し、「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」は、臨時雇用員に対する退職手当支給に関する国鉄部内の連絡文書であって、右規程と対置されるべき性質のものではない。

(三) 本件退職手当算定当時の国鉄の同支給事務担当者は、右のような国家公務員等退職手当法、退職手当支給事務基準規程及び「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」の相互の関係及び内容について正確な知識を有しておらず、職員に対しては右規程が、臨時雇用員に対しては右事務連絡が、それぞれ別個に適用されて退職手当が算定されるという誤った理解をしていた。

そのため、職員については、右規程により「基本給月額×退職事由別支給率」という算定方式であるのに対し、臨時雇用員については、右事務連絡により「基本給日額×〇・八×二五×自己都合退職の支給率」という算定方式をとっていた。

しかし、右事務連絡にはそのような計算式の記載はないのであり、担当者は右事務連絡についての正確な認識もなく、これに右計算式の記載があるものと誤解していた。

(四) 国鉄においては、臨時雇用員の退職手当の算定方式及びその根拠法令について明記したものは存在せず、各地の事業所においても、その根拠として示された規程は区々であった。

そして、被控訴人においても、本件退職手当の算定の根拠につき、明確な回答、説明をするだけの認識を有していなかった。

4  臨時雇用員についての退職手当算定方法の不明確性

(一) 和田弘子のような臨時雇用員については、そもそも法的位置付けが曖昧で、日本国有鉄道法では非職員とされているのに、公共企業体等労働関係法では職員とされており、国家公務員等退職手当法についても、国鉄のすべての臨時雇用員に一律に適用されるのではなく、同法施行令による一定の要件を充たす者のみが、同法上の職員とみなされ、また、国鉄の臨時雇用員は多種多様であって、パートといわれる時間契約のものから、一か月二〇日の出勤制限の定められているもの、或いは和田弘子のように職員と同様な勤務に携わるものなど様々であって、その取扱いも一律ではない。

(二) このように、臨時雇用員については基本となる法令の適用自体が明らかではなく、和田弘子の退職手当について適用される根拠規程に関し、被控訴人は、本訴において、最終的には、国家公務員等退職手当法、同法施行令、「国家公務員等退職手当法の解釈及び運用方針」(昭和二八年九月三日蔵計第一八三二号大蔵大臣通知)、退職手当支給事務基準規程、「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」の五つの法令及び内部規程等によるものであると主張するに至ったが、それまでの別件地位確認訴訟などにおける被控訴人の主張は一貫せず、恣意的で不明確であった。

また、職員の場合は退職手当支給事務基準規程にすべて定められているが、これと異なり、臨時雇用員の場合は、そのような一定の規程はなく、その退職手当の算定方法は、不明確かつ複雑であって、個人には容易に把握し難いものであった。

現に、被控訴人主張の算定方式(賃金日額×〇・八×二五×自己都合退職の支給率)についても、被控訴人がその根拠として主張する右五つの法令及び内部規程等にも、その計算式自体の記載はないし、国鉄が和田弘子の退職手当算定に適用したという解釈、判断を明記した規程等もない。

(三) 更に、大阪工事局による和田弘子の退職手当の算定方式自体が、以下のとおり、誤った法令の解釈に基づく違法不当なものであった。

(1) 勤続期間の問題

ア 出勤日数が二二日に満たない月について

大阪工事局は、和田弘子の退職手当の支給対象勤続期間は、「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」に規定するところの一か月二二日以上の勤務の継続に欠けるため、分断されて二年と六年になり、退職手当支給事務基準規程一一条の適用はないとする。

しかし、雇用関係が社会通念上継続していると認められる場合において、「常勤職員に定められている勤務時間以上勤務した日が二二日以上ある月が引き続いて六月を超えるに至った」以上、以後二二日に満たない月があったとしても、勤続期間に算入すべきであるとするのが、国家公務員等退職手当法、同法施行令及び「国家公務員等退職手当法の解釈及び運用方針」の正しい解釈であり、また、同法施行令一条一項二号は「勤務をした日」のうちには「法令の規定により、勤務を要しないこととされ、又は休暇を与えられた日を含む」ものとし、人事院規則一五―四「非常勤職員の勤務時間及び休暇」の三号には「必要やむを得ないと認められる場合においては、非常勤職員に対して、無給休暇を与えることができる。」としており、「国家公務員等退職手当法の解釈及び運用方針」においても「二二日」には右人事院規則に規定する有給休暇の期間及び無給休暇を含むものとしているところ、和田弘子の欠勤日は病気等によるもので、いずれも事前に許可を得た無給休暇であるから、この点でも、出勤日数が二二日に満たない月が六月継続していない期間はすべて退職手当対象期間から除外したのは、違法不当である。

イ 長男出産時の取扱いについて

大阪工事局は、和田弘子が昭和四八年九月三〇日付をもって一旦退職したとする。

しかし、右退職は同女が長男を出産するためであり、実際は、同年一〇月一五日までに出勤し、当時の労働基準法の産休期間である一二週間だけ休んだ後、昭和四九年一月七日から出勤したが、大阪工事局の都合で待機を命ぜられ、現実の就労は同年一月一〇日になった。

ところが、大阪工事局は、臨時雇用員には産休制度はないとして、出産後再雇用する代わりに、昭和四九年一月に再出社した後、同女に昭和四八年九月三〇日付をもって退職する旨の退職願(乙第三三号証)を提出させたものである。

したがって、右退職は形式的なもので、実際には退職としての事務手続もとられておらず、昭和四八年九月三〇日から再雇用の昭和四九年一月一〇日までの間は、実質は産休期間であったものであり、これを勤続期間から除外するのは違法である。

ウ 次男出産時の扱いについて

大阪工事局は、和田弘子が次男出産のため欠勤した昭和五二年四月一八日から同年七月一〇日までの期間を退職手当算定の基礎となる勤続期間から除外している。

もっとも、被控訴人は、本訴においては、右期間を産休制度による分娩欠勤期間として、退職手当算定上勤務したものとみなしていると主張するに至ったが、一方で、被控訴人は、平成三年三月に大阪府労働部雇用保険課に提出した「和田弘子さんの退職手当にかかわる勤続期間について」と題する書面(乙第一九号証)において、右産休期間を退職手当の基礎となる勤続期間から除外している。

(2) 俸給月額の問題

大阪工事局は、国家公務員等退職手当法三条の退職手当の基礎となる俸給月額について、和田弘子は「国家公務員等退職手当法の解釈及び運用方針」第三条関係にいう「賃金又は手当の額のうち俸給に相当する部分の額が賃金又は手当の額の算定上明らかである者」以外の者であるとして、「賃金日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額」とした。

しかし、和田弘子は、通勤手当以外には手当が支給されていないから、右にいう「賃金又は手当の額のうち俸給に相当する部分の額が賃金又は手当の額の算定上明らかである者」にあたることは明らかである。

したがって、退職手当算定の基礎となる俸給月額は、「賃金日額の二五倍に相当する額」とすべきである。

もっとも、「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」には、「退職の日における賃金日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額をもって俸給月額とする。」とされているが、右「事務連絡」は、労使間の協議及び同意に基づいて作成されたものではなく、国鉄当局側の単なる連絡文書に過ぎないから、法令に反する内容は無効である。

(3) 支給率適用の問題

大阪工事局は、和田弘子の退職手当の算定にあたり、普通退職の場合の支給率(退職手当支給事務基準規程一〇条一項)ではなく、自己都合退職の支給率(同一〇条二項)を適用している。

しかし、和田弘子の場合はむしろ整理解雇の支給率(同一二条)を適用してしかるべきところであるが、臨時雇用員について同一二条の適用が排除されているため、その適用はできないとしても、少なくとも自己の都合による退職でないことは明らかであるから、自己都合退職の支給率(同一〇条二項)を適用すべきではない。

「国家公務員等退職手当法の解釈及び運用方針」第三条関係の二項においても、「第三条第二項に規定する『その者の都合により退職した者』には、法令で定める任期満了等により退職した者は含まないこと。」とされており、和田弘子の雇止めの場合も、一種の任期満了として、自己都合退職にあたらないものというべきである。

国鉄は、退職手当支給事務基準規程一〇条一項と二項の区分は、いわゆる普通退職と自己都合退職の区分に対応するものではなく、勤続年数の長短によって支給率に差異を設けた趣旨であり、いわゆる普通退職をした者についても勤続年数一〇年以下の者については同条二項を、勤続年数一一年以上の者については同条一項を適用するとの解釈が確立していて、長年にわたり右のように取り扱ってきたとするが、本件に至るまで、臨時雇用員について「業務量の減少による解雇」の前例はなく、本件の場合、国鉄の分割民営化という非常事態において初めて行われたことであり、これまでは臨時雇用員には自己都合退職しかなかったのであるから、臨時雇用員について、右のような解釈や取扱が確立していたということはあり得ない。

5  退職手当算定問題についての団体交渉の必要性

(一) 臨時雇用員の本件雇止めに伴って大阪工事局と国労分会の間で行われた団体交渉において、大阪工事局が、退職手当の算定方式及び算定根拠につき、内部規程を援用して回答した事実はない。

退職手当問題が協議されたとされる第七回団体交渉(昭和五八年八月二五日)においても、「規定上」「部内規程によって」などと抽象的な言い方がされているだけで、具体的な算定方式や、被控訴人が退職手当算定の根拠として主張する前記五つの法令及び内部規程等は、どれ一つ明確に示されていなかった。

(二) また、右団体交渉において、国労分会と大阪工事局との間で、和田弘子の退職手当算定についての内部規程とその適用自体に争いがなかったわけではない。

右第七回団体交渉の中で、国労分会が「規定である以上、地方の権限の枠を超えるものであり、残念であるがどうにもならないと思うが、こういった事柄があるということは本社に伝えてもらいたい。」旨の発言をしたのは、臨時雇用員の退職手当についても整理解雇の場合の退職手当の支給率を適用するようにとの要求について、国労分会側も、国労本部と国鉄本社間の協議事項であることを確認したものに過ぎず、国鉄当局側の主張する退職手当に関する内部規程とその適用自体を争わないという意味ではない。

退職手当を含む賃金等の基本的な労働条件については国労本部と国鉄本社間の交渉事項であるけれども、日給額の上積み等は地方でも交渉できる事項であり、本件団体交渉において、国労分会側は、臨時雇用員の退職手当の上積みについて、大阪工事局側に対し、「地方当局としてでき得る最大限の措置」を求め、双方の間で、「今後とも協議して行く」ことを確認したのである。

(三) 控訴人補助参加人が本件団体交渉の申入れをしたのは、前記のように、和田弘子が、平成二年八月に天満労働基準監督署と天満職業安定所へ調査に行った際、「解雇にあたって退職金の算定内容を知らされないのはおかしい。」「まず、話し合って明らかにすべきである。」との指摘を受けたことによるものである。

そして、本件団体交渉申入れの交渉事項の「和田弘子の在職時の扱い」は同女の出産の際の産前産後休暇の問題であり、「和田弘子の解雇時の諸条件」は同女の雇用保険給付問題及び退職手当算定問題であり、ともに退職手当算定方法と算定根拠について説明を求めようとしたものであり、同女が可能な限り推定することのできた根拠法令によって試算した金額と、現実に支給された金額とが一致しないため、その疑問を質すためのものであったが、既述のように、大阪工事局の本件退職手当算定方法は明らかに誤っており、その根拠規程等についても不明確かつ曖昧で、多くの疑問がある。

したがって、和田弘子の退職手当算定問題について協議が尽くされてはおらず、なお、団体交渉を行う必要があり、被控訴人には、本件団体交渉の申し入れを拒否すべき正当な事由があるとはいえない。

(四) なお、和田弘子は、大阪工事局がした本件退職手当の供託を、その後還付請求により受領しているが、それは、退職手当として納得ないし同意して受領したものではなく、生計の維持のため、やむを得ず、解雇を認めたり、退職手当として了解するものでないことを明らかにしたうえで、あくまで未払い賃金の内金として受領したものである。

したがって、右供託金の受領により、同女が、本件退職手当算定問題を終了させ、或いは、団体交渉によって解決する意思を失ったとはいえない。

(五) 本件団体交渉の申入れは、和田弘子の雇止めから約六年一一月経過後になされているけれども、本件解雇(雇止め)そのものが国鉄の分割民営化という非常事態の中で強行されたものであり、それに伴う国労の組織変更や混乱などの事情のために、和田弘子としても、本件退職手当問題について調査ができずにいたところ、前記のように、平成二年八月に天満労働基準監督署と天満職業安定所へ調査に行った結果、退職手当算定についての疑義が生じ、その後ただちに控訴人補助参加人によって本件団体交渉の申入れがなされるに至ったものであって、決して時機を失したものではなく、かつ、解雇時と異なる新たな事情が発生したことによるものである。

四  控訴人及び控訴人補助参加人の主張に対する認否と反論

1  控訴人及び控訴人補助参加人の主張はいずれも争う。

2  臨時雇用員の退職手当算定の問題については、大阪工事局と国労分会の間の第七回団体交渉(昭和五八年八月二五日)において、和田弘子の退職手当について整理退職の算定方式が適用可能かどうかの点も含めて、労使が論議し、協議を尽くしているのであって、そのことは、当時の団体交渉議事録及び議事録作成メモ(甲第三号証、丙第一号証の七)から明らかであり、また、和田弘子が退職手当算定方式を知っていたことは、同女が責任者として発行した国労分会婦人部ニュース(乙第四一号証)から明らかである。

3(一)  臨時雇用員の退職手当は、国家公務員等退職手当法と国鉄の部内規程である退職手当支給事務基準規程及び「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」に基づいて、何十年にもわたり同じように取り扱ってきたものであり、被控訴人が本件退職手当に関する当時の部内規程及び個々の事例に対するその適用を今更変更することは全く不可能なことであって、本件の退職手当算定問題は団体交渉に馴染む問題ではない。

なお、計算式そのものは、誰もが一応知っているものであり、退職の際などに関心を持てば、容易にその詳細を知り得るものである。もし、これが新規のものであれば、当然団体交渉に提案され、交渉対象になるところであるが、国労分会側から何らその説明要求のなかったこと自体、全員周知のものであることを物語るものである。

また、和田弘子は、現在、退職手当算定問題についての訴訟を提起して係争中であるから、本件退職手当問題も、その訴訟における司法判断によって解決されるべきことであって、団体交渉の必要性はない。

(二)  「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」は、国鉄における臨時雇用員の退職手当支給に関する部内指針であって、退職手当支給及び算定の法的根拠を示すものである。

退職手当の支給について、臨時雇用員を、一定の要件のもとに職員とみなすことは、国家公務員等退職手当法二条二項に基づいており、これを受けて、臨時雇用員も退職手当支給事務基準規程に規定する職員とみなし、退職手当を支給するようになっている。

退職手当支給事務基準規程一〇条の一項と二項については、勤続年数が一一年以上の者と一〇年以下の者とを区別し、勤続報奨的な意味合いを持たせて、支給率に差異を設けたものであり、同二項の「本人の都合による退職」の中に本件のように二か月の期間を定めて雇用された者が、その期間満了で退職する場合に適用されることは、期間満了の法律的解釈から明らかである(期間は双方の合意で定められるものであるから、その満了は「当事者の一方の都合」である。)。

したがって、期間を定めて雇用された者が一〇年以内で期間満了により退職する場合は、すべて同二項を適用して処理されてきたものである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も被控訴人の本訴請求を認容すべきものと認定判断するが、その理由は、以下に訂正、付加するほかは、原判決の理由のとおりであるから、これを引用する。

当審において提出された証拠(丙第一七ないし第三一号証)も、右認定判断を覆すものではなく、ほかに右認定判断を左右するに足りる証拠はない。

1  原判決二五枚目表二行目の「三五号証」の次に「(乙第一〇、一一号証については原本の存在も争いがない。)」を加え、三行目の「四四号証」の次に「、丙第一号証の一ないし一〇」を加える。

2  同三五枚目表一〇行目の「第六回」を「第五回」と改める。

3  同三八枚目裏一行目の冒頭の「係」の次に「一項ハ(2)B」を加える。

4  同三八枚目裏二行目の「以下のような規程を定めている。」を「規程一〇条は次のとおり定めている。」と改め、同三行目の「一〇条。」を削除する。

5  同四一枚目裏一行目の「定めはなく、」を「定めはないが、「この規則の細目については別に定めるところによる。」として、その別に定める細目の中に臨時雇用員の退職手当について(昭和三一年一二月七日職給第一一九二号依命通達)を掲記しており、また、」と改める。

二1  控訴人及び控訴人補助参加人(以下単に「控訴人ら」という。)は、和田弘子の退職手当算定方法の問題について、大阪工事局と国労分会との間で行われた一〇回にわたる団体交渉において協議が尽くされていないなど、被控訴人に本件団体交渉申入れを拒否すべき正当な理由がないなどと種々主張するが、右退職手当算定の問題については、大阪工事局と国労分会との間の右団体交渉の場において協議が尽くされており、その後の事情や経過を総合考慮すれば、被控訴人が控訴人補助参加人の本件団体交渉申入れを拒否するにつき正当な理由があったと認めるべきであることは、原判決の理由の「三 主たる争点に対する判断」の「5 不当労働行為の成否」の項に記載のとおりである。

2  大阪工事局による和田弘子の本件退職手当の算定方法及び金額は、前記認定のとおり(原判決三七枚目表二行目から四一枚目表七行目まで)であるところ、控訴人らは、大阪工事局が、退職手当算定方法の明示・説明義務を尽くさず、別件地位確認訴訟で被控訴人が「臨時雇用員の退職手当算定方式」を提出したことにより、はじめて和田弘子がその算定方法を知った旨主張し、弁論の全趣旨により成立の認められる丙第一七号証及び原審証人和田弘子の証言には、別件地位確認訴訟で、昭和五九年五月一八日に国鉄が証拠として提出した「職員と臨時雇用員の労働条件等比較表」(丙第四号証)によって、はじめて臨時雇用員の退職手当は「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」によって支払われるもので、その「賃金日額×〇・八×二五×勤続年数×(自己都合退職の支給率)」という算定方式を知った旨の記述ないし供述がある。

しかし、前記認定のとおり(原判決四五枚目裏)、和田弘子は、昭和五八年八月当時右退職手当の算定方式を知っていたものと認められるうえ、たとえ、同女が自己の退職手当の具体的な金額を算定できるような「俸給月額」「支給率」「勤続期間」等の正確な算出方法やその根拠となる規程等を逐一知らなかったとしても、当時同女が所属していた国鉄労働組合は、わが国でも有数の強大な組織力をもった労働組合であり、本件の退職手当のような問題については、国鉄当局との多年にわたる交渉や闘争を通じて、豊富な知識経験や資料を有するものであることは公知の事実であるところ、同女は、その大阪工事局分会の婦人部長の地位にあり、正規の交渉員ではなかったにしても前記団体交渉に出席し、或いは、婦人部ニュースを発行するなど、臨時雇用員の退職手当問題について強い関心をもって組合活動をしていたのであるから、知ろうとさえすれば、同労働組合の組織を通じて、前記退職手当関係法規令達集をはじめ、必要な資料や知識を入手することは容易であった筈であり、国鉄側において、退職金算定方法の詳細や根拠法令について明示や説明をしなかったとしても、当時、国労分会が和田弘子を含む臨時雇用員の退職手当に関して団体交渉を行うにつき、何ら支障があったとは考えられず、そのことのために、前記団体交渉において、本件退職手当算定の問題についての協議が尽くされなかったとか、不十分であったとは認められない。

したがって、仮に、控訴人らが主張するように、大阪工事局側において、臨時雇用員の退職手当算定方法の明示・説明に不十分な点があったとしても、そのことから本件団体交渉申入れの必要性があるということにはならず、被控訴人の団体交渉拒否についての正当事由の存在を否定することはできない。

3  控訴人らは、当時、臨時雇用員の退職手当算定方式やその根拠規程等が不明確であり、また、大阪工事局による和田弘子の退職手当算定自体も違法不当なものであったとして、縷々主張する。

大阪工事局による和田弘子の退職手当の算定方式及びその根拠規程等は前記認定のとおりであるところ、控訴人らの主張は、右大阪工事局の算定方式について、勤続期間の算定についての出産のための退職の扱い方、退職手当の基礎となる俸給月額について「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」により「賃金日額の八割に相当する額の二五倍に相当する額」とすることの当否、本件の雇止めによる退職について自己都合退職の場合の支給率を適用することの当否など、要するに、右算定方式における「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」や「国家公務員等退職手当法の解釈及び運用方針」などの退職手当関係規程令達類の、臨時雇用員についての適用や解釈運用の仕方を非難するものである。

しかし、前記認定のとおり、大阪工事局の右算定方式は、当時の国鉄の確立した関係法規類の解釈運用に基づくものであって、大阪工事局のみの判断でこれと異なる算定方式をとることができるものではなかったし、当時の国鉄はもとより、現在の被控訴人においても、これを変更する意思はまったくなく、したがって、国労分会ないし控訴人補助参加人との団体交渉によって、これを変更する余地はないものであり、和田弘子において、あくまで右算定方式による退職手当の額を争うのであれば、訴訟により司法判断を求めるべきものである(現に、和田弘子が被控訴人に対し本件退職手当の支払等を求める訴訟(大阪地方裁判所平成五年(ワ)第三六三七号)が係属中である。)。

4  控訴人らは、前記第七回団体交渉の中で、国労分会が「規定である以上、地方の権限の枠を超えるものであり、残念であるがどうにもならないと思う。」旨の発言をしたのは、臨時雇用員の退職手当についても整理解雇の場合の退職手当の支給率の適用を要求したことについてであって、国鉄の主張する退職手当に関する内部規程とその適用自体を争わないという意味ではないと主張する。

しかし、前出甲第三号証、乙第三四号証、丙第一号証の七によれば、たしかに右団体交渉において、臨時雇用員の本件雇止めによる退職手当について職員の整理解雇の場合の支給率の適用を求める国労分会側の要求についての応酬があったことは認められるが、右国労分会側の発言は、必ずしもその点に限ってのものとはいえず、むしろ、前記認定のとおり、臨時雇用員の退職手当算定問題は、国鉄の内部規程で一律に定められる性質のもので、大阪工事局のみの判断で独自の解決をすることになじまないものであるという認識を示したものと解するのが相当である。

5  控訴人らは、大阪工事局による退職手当算定の法的根拠が不明確であり、本件退職手当算定の根拠法令は国家公務員等退職手当法と、同法に基づき、労使協議を経て定められた退職手当支給事務基準規程であって、大阪工事局が依拠する「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」は、国鉄部内の連絡文書に過ぎず、右規程と対置されるべき性質のものではない旨主張する。

しかし、前記認定のとおり、大阪工事局の臨時雇用員の退職手当算定方式は、国家公務員等退職手当法、同法施行令、「国家公務員等退職手当法の解釈及び運用方針」、退職手当支給事務基準規程及び「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」に基づくものであり、職員及び準職員を対象とする退職手当支給事務基準規程を、一定の要件のもとに臨時雇用員にも適用するために「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」を定めたものであることは、右規程と事務連絡の対比から明らかであって、臨時雇用員についても退職手当支給事務基準規程を適用していることには変わりはない。「臨時雇用員の退職手当について(事務連絡)」が国鉄内部の連絡文書であり、労使協議を経ていないとしても、国鉄が、右のような事務連絡によって、退職手当支給事務基準規程の具体的運用を定めることは何ら違法ではなく、大阪工事局の本件退職手当算定の法的根拠に何ら不明確なところはない。

成立に争いのない丙第六号証、原本の存在及び成立とも争いのない丙第三〇号証によれば、同じ国鉄でも、千葉鉄道管理局臨時雇用員就業規則では「退職手当支給事務基準規程を準用する。」とし、また、東京第二工事局臨時雇用員就業規則では「法律第一六四号(注・国家公務員等退職手当法のこと)の定めるところによる。」としていて、臨時雇用員の退職手当につき、前記大阪工事局の就業規則とは異なる規定の仕方になっていることが認められるけれども、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第六号証の一、第七号証の一、二によれば、その各就業規則の規定の趣旨と実際の取り扱いは大阪工事局と同一であると認められ、ほかに国鉄の各地の事業所における根拠規定や取り扱いが区々であったと認めるべき証拠はない。

6  控訴人らは、本件団体交渉の申入れが和田弘子の雇止めから約六年一一月経過後になされているのは、国鉄の分割民営化という非常事態の中で、国労の組織変更や混乱などの事情もあり、その間調査できなかったためで、平成二年八月に労働基準監督署と職業安定所へ調査に行った結果、退職手当算定についての疑義が生じ、その後ただちに本件団体交渉申入れがなされたものであるから、時機を失しておらず、また、解雇時と異なる新たな事情が生じていると主張する。

本件雇止め後、国鉄の分割民営化に伴って、国鉄や国労に様々な変動や混乱があった事実は否定できず、また、和田弘子自身、別件地位確認訴訟を提起するなど、雇止めによる退職そのものを争い、雇用継続を主張する方に力を注いでいた状況も認められるが、前記認定のような、和田弘子の雇止めに至る経緯、大阪工事局と国労分会の間で臨時雇用員の雇止めや退職手当の問題をめぐって行われた団体交渉、和田弘子自身、国労分会婦人部長として、臨時雇用員の退職手当問題に強い関心と問題意識をもち、団体交渉にも出席し、積極的に組合活動を行っており、臨時雇用員の退職手当算定方式を知っていたか、少なくとも容易に知り得る立場にあったことなどの事情に照らせば、本件団体交渉申入れが時機を失したものではないとか、解雇時と異なる新たな事情の発生によるものであるとは認め難い。

7  そのほか、控訴人らが主張するところは、いずれも、被控訴人に本件団体交渉申入れを拒否するにつき正当事由があるとする前記認定判断を覆すに足るものではないか、或いは、独自の見解というべきものであって、採用し難い。

三  以上の認定説示のとおり、和田弘子の退職手当の算定の問題については、本件雇止め当時、同女の所属していた国労分会と大阪工事局との間で行われた団体交渉で協議が尽くされており、国労分会ないし和田弘子自身も、退職手当算定方式やその根拠規定等を知っていたか、少なくとも容易に知り得たものであること、大阪工事局の右退職手当算定方式は、当時の国鉄による確立した法令その他関係規定類の解釈と運用方針に基づく統一的な取り扱いによるものであって、大阪工事局が独自の判断で、その取り扱いを変更する余地はなかったうえ、現在においても被控訴人に当時の右解釈と運用方針、取り扱いを変更する意思はまったくないこと、和田弘子の本件雇止めから本件団体交渉申入れまで約六年一一月もの年月が経過しており、その間、国労分会ないし控訴人補助参加人において、本件退職手当算定問題について何ら交渉を求める動きがないままに推移したこと、被控訴人と控訴人補助参加人の間には、和田弘子の雇止め及び退職手当の問題以外には団体交渉の対象となる事項は存在しないことなどの事情を考慮すれば、被控訴人が本件退職手当算定問題についての控訴人補助参加人の本件団体交渉申入れを拒否するにつき正当な理由があったというべきであるから、被控訴人による本件団体交渉申入れの拒否について、労働組合法七条二号の不当労働行為が成立するものではなく、したがって、本件救済命令は違法であり、これを取り消すべきである。

四  以上により、被控訴人の本件請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これ棄却することとし、控訴費用及び補助参加の費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九四条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 志水義文 高橋史朗 三浦宏一)

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